MEZZANINE 02
Spring / 2018
アマゾンエフェクト・ミーツ・ポートランド
この10年間、日本ではライフスタイル、都市再生の理想像として、ポートランドブームなるものが起こった。「全米で一番住みやすい街」「官民連携まちづくりの成功例」」云々だ。でも、時代は変わる。都市は変容する。スローなライフスタイルはラピッドな経済に、ネイバーフッドはブームタウンに、金はなくてもなんとかなった生活は路上生活に。あの街に漂っていたファンキーなバイブスは、マネーウォッシュされつつある。
都市政策として行ってきた人材誘致と激しい都市再生の結果、今やポートランドは急速な人口増とそれに追いつかない雇用需要や住宅供給、持つ者と持たざる者の地元経済の分断といった社会問題に直面している。都市再生と経済開発を担ってきたPDC(市開発公社)は解体され、代替する新組織は今後マイノリティ支援に重きを置く方針転換を果たした。
アメリカのグランジでリベラルでイケてた地方都市が、ただの大都市に変わってしまうのか。それがポートランドが目指したアーバンチェンジだったのか。
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今回の取材で、現地のあるデベロッパーはこう話してくれた。「目標は事業収益の最大化ではない。投資回収計画に沿ったそれなりの収益でいい。それよりは、いかに自分が没頭できる場所を開発するかだ。俺のビルに見惚れて、ドライバーが事故るくらいが丁度いい」
「そうした考えを持つ企業はポートランドには多いから、彼らとの間で何らかの差別化策が必要ではないか」、との問いに、「最低の質問だ。自分がインスピレーションを感じるかどうかだ。すべての人に好まれるものを作る必要はない」。マーケティングの地平に軸足を置かない、クリエイティブなポートランダーの典型だ。大丈夫、まだちゃんと居たのだ。
クリエイティビティとは、かくもタフで無垢なものなのか。その時頭に浮かんだのは、ウィリアム・モリスの「労働の芸術化」というキーワード。「労働とは人間の主体的な創造行為。つまり喜びであり楽しみであるべき」の物言いだ。そういうマインドセットを持つ人の割合が他の都市よりも少しだけ多い寛容なる実験都市ポートランドだから、AIの時代になっても、機能剥き出しの粗野な「サイエンス&テクノロジー」生活ではなく、情緒的(牧歌的?)に過ぎる「アート&クラフト」生活でもなく、絶妙のバランス感覚を発揮して「テクノロジー&クラフト」生活というオルタナティブを見出してくれるはず、の期待がある。
そうこうしている内に、向こうから面白いニュースが入ってきた。アマゾン・ドット・コムの第2本社誘致競合計画だ。
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今号では都市の時代、イノベーション経済の時代を象徴する、全米中が沸いたこの「アマゾン第2本社誘致合戦」を通して、ポートランドの特殊性をあぶり出してみることにした。果たして、ポートランドは持ち前のファンキーさとグランジさを捨てて、大都市の仲間入りを果たしてしまったのか。それとも、今の状況は次なる都市像にジャンプするための産みの苦しみに過ぎないのか。
「アマゾンエフェクト」を通して、ポートランドの次なるアーバンチャレンジ・フォー・アーバンチェンジに触れることができれば、ポートランドには悪いが、われわれにとっては、今回のアマゾン誘致合戦敗退は極めて意義あるものとなるはずである。