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MEZZANINE 03

Winter / 2018

テックジャイアントたちは、今なぜ都市をつくりたがるのか

 

今、シリコンバレーのテック企業の多くが「都市」をつくりたがっている。ビル・ゲイツはアリゾナに、アルファベット(グーグル親会社)は子会社サイドウォーク・ラボを通じてカナダ・トロントに、AirbnbやDropboxを育てたスタートアップ・アクセラレーター大手、Yコンビネーターは「ニューシティーズ」構想を発表、シーメンスは都市インフラ・データベース「シティ・インテリジェンス・プラットフォーム」、IBMは「スマーターシティーズ」、アマゾンウェブサービスは「未来の都市」をそれぞれコンセプト名、商品名としながら、都市問題を解決するデジタルサービスを拡充している。

 

インターネットビジネスの世界で大成功を収めたテックジャイアントたちは、いよいよコンピュータやサイバースぺースの中から抜け出し、次に向かう先としてリアルな都市を主戦場に選択したことになる。文字通りの市街地戦だ。背景にあるのは、センシング技術、無線通信技術とAI技術の進展により、都市自体が大きなインターネット・オブ・タウン(IOT)になりつつある状況だ。

 

さて、そこで気になるのが、日本では不発に終わったかつてのスマートシティ・ビジネスだ。

これまで都市スマート化の多くは、エネルギーの最適制御に終始した。もちろん、それも一つの重要な都市問題の解決策に違いない。だけど都市生活者にとって、それらはあくまで前座に過ぎない。物事がオートマチカリーに処理されることにより、現代人が既に侵されている依存体質にさらに拍車を掛けるスマート化より、われわれはむしろ、内なるプリミティブ性を刺激し助長してくれるような創造的チョッカイを欲している。これまでのスマートシティは20世紀近代主義的な「完成パッケージの押し売り」のようで退屈なのだ。かつてのスマートシティが今一つ盛り上がりに欠けたのは、それが要因ではないかと思う。

 

AI技術の飛躍的進歩により、スマートシティがエネルギーの最適制御を超えて、われわれから吸い取ったデータを用いて知的創造の支援までしてくれるようになった時、いよいよスマートシティはスマーター・スマートシティと化して一皮むけるのではないかという思いがある。そうした期待とともにサイドウォーク・ラボを訪問した。まだ計画は緒に就いたばかりで、データプライバシーに対する向き合い方もこれからだ。最終的に彼らが、都市を今よりもっとクールでチャーミングにトランスフォーメーションできるか、まだ見えてはいない。とはいえ、取り敢えず今回は彼らにこうエールを送ってきた。「電子から都市へ、リアルな世界にようこそ」。

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