クリエイティブシティ徒然
ー パーパスシティ、エイブルシティ、オポチュニティシティ…
text:吹田良平
近年、オフィスデザインの世界では「ABW(Activity Based Workplace)」というコンセプトが流行っている。これは労働生産性を基軸にオフィス環境を再編しようとする考え方で、オフィス内をフリーアドレスにした上で、数パターンのデスクセッティングを用意。その時々の気分で効率の上がる場所を選んで時間占有するという設えだ。だが本来のABWは自社の建物内に閉じた話ではなく、生産性が上がるのであれば、働く場所はオフィスから外に出て、自宅でも、カフェでも、街のコ・ワーキング・スペースでも良いというのがオリジナルだ。 その結果起こるのは、オフィス街と住宅街、オフィスと家、就労時間とプライベート時間といった区分が溶けてなくなっていく状況だ。
2008年の金融危機からわずか10年で世界第2位の起業都市に成長したニューヨークのイノベーションディストリクト、ブルックリンでは、そこに所在する新興企業の7割は「従業員の大半がブルックリンに在住」。さらに、3分の1の企業は「従業員全員がブルックリン在住」。多くの人が働く街に住んでいる実態が明らかにされている。 このような知識創造産業に従事する者は、労働行為自体に生き甲斐を見出すケースが少なくない。そこでは就労と私事が不可分となりがちで、プライベートとワークは区別してバランスを取るというよりも、むしろインテグレートされる傾向が見られる。
また、ここ数年、年間4万人もの移住者が押し寄せるブームタウン、ポートランド市の状況を現地の行政マンは次のように解説する。
「ここは街自体が自ら率先して実験的な取り組みに挑んでいるから、何かに挑戦したい人たちが全米中から集まってくる」。加えて、「西部開拓史の時代からパイオニアによってつくられた街だから、多くの市民は未だに挑戦する精神を持ち続けているし、挑戦する人を受け入れる術が自然と身についている」。
挑戦を行動に移す態度が街中にコモンセンスのように広がっているこの街は、パーパスシティであり、エイブルシティであり、オポチュニティシティであり、創造特区と同意だ。これがメザニンがイメージするクリエイティブシティのエートス、社会関係資本に代わる創造資本の実態である。
「chapter2」では、現在巷で喧しい3つの都市政策、「データ駆動型スマートシティ」、「スタートアップ・エコシステム拠点都市」、「クリエイティブシティ」に対する課題や違和感を洗い出した上で、都市と人との新しい関係を探る。
Interview
矢野和男(株式会社日立製作所 フェロー、理事、未来投資本部ハピネスプロジェクトリーダー)
平井卓也(前IT担当大臣)
山村崇(早稲田大学高等研究所 講師) report
ブルッキングス研究所
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