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  • 執筆者の写真MEZZANINE

スマートシティがスマートな都市となるために

更新日:2020年9月23日

text:吹田良平  病んだ精神を癒す心理カウンセリングに代わって、近年、ポジティブ心理学の研究が急速に進んでいる。要は、人が感じる「幸福」を定量的に把握・分析する学問だ。これによると、人が幸福と感じるのは、「自分から積極的に行動を起こすこと」。成功の有無ではなく、行動を起こすこと自体が幸福感を得ることにつながるのだそうだ(「The How of Happiness」ソニア・リュボミルスキUCR教授)。

 一方、スマートシティはどうだろう。スマートシティは、従来手間や時間のかかっていた作業をコンピュータやロボット(自動化)で置き換えて(代替化)、生活を便利にすること(効率化)を使命としてきた。つまりこれまで我々が行ってきた活動をしなくても済む(省力化)ようにすることがスマートシティの目標だ。幸福の真逆である。スマートシティが取り組むべきことはむしろ、仕事を減らすことではなく仕事を作ることである、としたら言い過ぎか。もう少し正確に言おう。

 心理学者ではおなじみマズローの欲求5段階説がある。人間の欲求は肉体的・生理的欲求や安全欲求からやがて自己実現欲求に至る、という例のアレだ。コレに先述のスマートシティの効能を照らし合わせてみると、そのほとんどは生活上の基本的な欲求、つまり欠乏充足の域を出ていないことがわかる。それを無駄や無知とは言はないが、それだけではスマートシティが実現する世界を、スマートな都市、賢い暮らしとは思えない。

 確かに、スマートシティは、安全・安心、あるいは基本的な暮らしを維持するために費やしていた、通勤や買物、通院等の時間を短縮・削減してくれるだろう。でも、大事なのはその先だ。新たに生み出された余剰時間を自己実現のための創造的活動に振り向けるようにする行動変容とその方法こそがゴールとなるべきだ。具体的には、「人と出会い、 交流の中で啓発を受けること」「異なる叡智と衝突し、共進化すること」。こうした活動を促し支える機能と作法の開発である

 都市は人々の主体的かつ積極的行動を増幅させる最高の舞台であり、今後ますます、創造的活動が都市に求められる中心となるだろう。スマートシティは、そうした、交流や共進化の発生を支援するテクノロジーを整備する必要がある。それが社会実装された時に初めて、スマートシティは真に賢い都市と言えるのではないかと思う。


photo:OGATA


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